デス・オーバチュア
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西方マスターズ。 その歴史は浅く、たったの『千年』ほどしかない。 『……何のマスターに成りたい……?』 「鎖を巻きつけた黒い布切れ」が掠れるような声を発した。 マジックマスター(魔術を極めし者)。 組織(マスターズ)の最古参にして、創始者。 彼女(?)はこの千年間代替わりすることもなく、マジックマスターとして、マスター・オブ・マスター (組織の頭首)として存在し続けていた。 「マスター・オブ・マスター(貴様の称号)……と言いたいところだが、こんな組織の統治(面倒)など御免蒙(ごめんこうむ)る」 黒いバイザーをした少年は、不遜極まる態度で言い放つ。 『……では、何のマスターを望む……?』 「グランドマスター……」 『……グランドマスター(偉大な指揮者)? 統治は面倒なのではなかったか……?』 「いいや、全てを極めし者という意味でのグランドマスターだっ!」 『……全てを望むか……それも良かろう……』 「さしあたってソードマスター(剣を極めし者)の称号を頂くとしよう。これでも一応、剣士の端くれなのでな」 『……その『枠』は埋まっているが……?』 「ならば退いてもらうまでだ。最強の剣士は一人で充分だからなっ!」 黒いバイザーの少年は不敵に微笑うと、マジックマスターに背中を向けた。 「私の相手は貴様だ、ソードマスター!」 サーフェイスは白刃の両手剣を片手(左手)で突き放つ。 「つぅっ!」 ガイは跳ねるように飛び起き、サーフェイスの刺突から逃れた。 「……サーフェイス……青い戦慄のサーフェイスか……」 聞き覚えのある通り名。 自分やディーンなどと並んで、地上最強の候補として名の上がる西方の剣士。 西方ではトップクラスの知名度を誇りながら、その詳細は知られておらず、ただその圧倒的な強さと絶対的な恐怖だけが伝わっていた。 「グランドマスターとか言ったな? お前、マスターズの関係者か……?」 もっとも、ガイの知る限り『グランドマスター(そんな称号)』は存在しないが……。 「『後輩』だとでも思ってくれればいい。貴様の称号を受け継ぐ者だっ!」 「奪い取るの間違いだろう……!」 サーフェイスの振り下ろした両手剣と、ガイが横に一閃した静寂の夜が激突した。 「いい剣だ……だが……」 交錯する二つの刃は、両手剣の方が『斬り込まれ』ている。 「所詮はただの名剣レベル……神剣には遠く及ばない……っ!」 「ふぅんっ!」 ガイはそのまま力を込めて剣刃を両断しようとするが、サーフェスはそれより速く両手剣を引き戻した。 「はぁぁっ!」 サーフェイスは引き戻した勢いで両手剣を振りかぶり、柄に右手を添えて『両手持ち』に切り替えて打ち下ろした。 「くっっ!」 壮絶な打ち下ろしをガイは回転するようにして紙一重で避け、そのままサーフェイスの胴体を斬り捨てにいく。 ガイは両手剣の間合いの『内側』に踏み込んでおり、サーフェイスには迎撃の手段は無いかに思えた。 「ふぅん!」 「なっ……!?」 静寂の夜が胴に届く寸前、サーフェイスの左肘と左膝が剣刃を挟み込む。 「流石は神剣、生身では噛み砕けない……かぁぁっ!」 サーフェイスは左足を踏み下ろすと同時に、逆手(右手)で握った両手剣を斬り上げる。 「無敵盾(イージスシールド)!」 ガイは両手で握り直した静寂の夜を正眼に構え、剣の背でサーフェイスの反撃の一撃を受けた。 正確には、剣の直前の空間に形成した不可視の『盾』でである。 「くぅぅ……っ」 逆手の一撃は盾の破壊こそ叶わなかったが、盾ごとガイを数メートル後退させた。 「ふぅん、力場(フォースフィールド)の類か?」 サーフェイスは不敵に微笑うと、両手剣を右手の逆手から左手の順手に持ち替える。 「倚天(いてん)!」 右手を突き出し、左手の両手剣を引き絞る。 「走破(そうは)ぁっ!」 「なぁぁ……くうぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 引き絞られた弓矢が解き放たれるように打ち出された『白刃』が、無敵盾を刺し貫いて静寂の夜に叩き込まれた。 届くはずのない間合い。 そのことを証明するかのように、『打ち終えた』後の二人の距離は、変わらず数メートル隔たれていた。 「馬鹿なぁっ! 静寂の夜に傷だと……!?」 静寂の夜(剣)の背に小さな点のような凹みができている。 本当に小さな小さな損傷だ。 だが、それはガイにはとても受け入れがたい事実。 たかが『名剣(地上の物質)』に『神剣(神世の物質)』が凌駕されたのだ。 「……いや、違う!」 「ほう……」 「……闘気の刃……そうだな……?」 「ふぅん、正解だ。よく見極めたな」 一瞬、白い剣刃が伸びたように見えたが、実際には両手剣の長さは180㎝から変わっていない。 「強度で遙かに劣る我が剣で打ち合えばどうなるかなど……最初の交錯の前から分かり切っている」 「だから、闘気で刃を強化か……いや、闘気で刃を形成……?」 ガイは妙な違和感を覚えた。 先程の技は、普通の闘気強化や闘気剣とは何かが微妙に違う気がする。 「……んっ?」 鋭敏なガイの感覚が、両手剣のほんの僅かな変化に気づいた。 最初の交錯でできたはずの『切れ込み』が綺麗に無くなっている。 「まさか、お前の能力は……」 「嫌な男だ。まさか、そっちまで気づくとはな……」 サーフェイスは苦笑をもらすと、両手剣を両手で握り直し正眼に構えた。 「それ以上の詮索は無用! 貴様は『普通』のやり方で斬り斃すっ! 」 突然、サーフェイスの全身から青い闘気が爆裂するように放出される。 「はあああああああああああああぁぁぁっ……!」 青く透き通る闘気が二倍、四倍、八倍、十六倍……とドンドン膨れ上がっていく。 「なるほど、見た目のどこにも『青』が無いかと思えば……そう言うことか……」 『青い戦慄』と呼ばれながら、サーフェイスは容貌にも纏う衣装にも青がなかった。 「……確かにこの圧倒的な闘気の量と激しさは恐怖を……戦慄を走らせるだろうな……」 青き闘気は質、量、出力、全てが人間離れしている。 「こいつも人の領域を踏み越えた者だと言うのか……?」 「破ああぁぁぁっ!」 裂帛の気合いと共に、闘気が最大値に達して安定した。 「待たせたな……このまま圧倒させてもらうっ!」 「……圧倒? 調子に乗るな、餓鬼がぁぁっ!」 ガイは師(ディーン)のような荒れた台詞を吐くと、全身から黄金色の闘気を爆発的に解き放つ。 「お前はまだこっち側だ……俺と同じくなっ……」 黄金の闘気は瞬時に、サーフェイスの青き闘気と『同等のレベル』にまで高まった。 「ふぅん、流石は現ソードマスターだな……そうでなければ面白くないっ!」 「ふん、どこまでも苛つく奴だ……っ!」 さらに勢いを増した青と黄金の闘気が、互いを凌駕しようと激しく押し合う。 『ウオオオオオオオオオオオッッ!』 二人は限界を超えて闘気を高め合うが、どちらかが一方を上回ることは決してなかった。 均衡……まったくの互角。 寧ろ共鳴でもするかのように、際限なく互いの『強さ』を増していった。 「……破っ!」 「……疾っ!」 サーフェイスとガイはまったく同時に動き出す。 互いに一足で間合いを詰め、サーフェイスは剣を振り下ろしガイは剣を振り切った。 最初とまったく同じ交錯。 違うのは周囲への『被害』だ。 極限まで闘気を高め合った二人が剣をぶつけ合っただけで、『核爆』のような衝撃が発生する。 「ふぅん、互角か……」 「認めたくないが……そのようだな……だからこそ……っ!」 最初の交錯の時と同じように、僅かだが神剣の刃が両手剣の刃に斬り込んでいた。 「ちっ!」 「剣の差が物を言うっ!」 サーフェイスが引き戻すより速く、静寂の夜が両手剣の刃を押し斬る。 「……やってくれたな……」 刃を中程で断ち切られた両手剣は、元の半分の長さしかないが、それでも静寂の夜と同じぐらいの長さは維持していた。 「ふん、これで勝ち誇るつもりはない……腕に見合った剣を用意して出直してこい……」 超絶の闘気で強化すれば『ただの鋼の剣』でも『超金属の剣』と数度ぐらいなら打ち合うことが可能である。 だが、超金属の剣の使い手にも同じだけ闘気強化されてしまえば、結局のところ剣の『差』は変わらず、強化も無意味なものになってしまうのだ。 「お優しい配慮……痛み入るっ!」 サーフェイスは「断ち切られた両手剣」でガイの喉元を斬りつける。 「退く気はないか……?」 ガイは軽快なバックステップで、サーフェイスの一閃から逃れた。 「無論だ……倚天裂襲蹴(いてんれっしゅうきゃく)!」 サーフェイスはいつの間にか右手に持っていた『切り落とされた剣刃』を足下に落とし、青く光り輝く右足で蹴り飛ばす。 「くっ!?」 剣刃は青く輝く無数の破片となって飛散し、ガイを襲撃した。 「蹴散らせ、烈風ぅぅっ!」 ガイは剣撃で烈しい剣風を巻き起こし、言葉通り「無数の破片」を蹴散らした。 「破片の一つ一つを闘気で強化(コーティング)か……差し詰め闘気の散弾だな……」 「残りもくれてやる」 サーフェイスはガイの懐に潜り込み、両手剣を一閃する。 「……背?……峰打ちだと?」 三度(みたび)、静寂の夜と両手剣が交錯するが……両手剣の方は刃ではなく背の部分だった。 サーフェイスは剣背の裏側に伸ばしきった右手(縦拳)を軽く当てる。 「発っ!」 「うぅっ!?」 掛け声と同時に剣刃が粉々に砕け散り、青光の飛礫となってガイへと浴びせられた。 「ふぅん、いくら貴様でも接触状態からの散弾まではかわせまい?」 例え反応できたとしも、飛礫はガイの剣の内側から発生したようなものなので、剣での防御は不可能。 散弾が体に到達する前に、『有効射程外』まで離れるしか対処法は存在しなかった。 「……ああ……流石にかわせなかった……だから、耐えることにした……っ!」 ガイは不愉快げな表情でサーフェイスを睨みつける。 「残念、傷一つ付いていないか?」 サーフェイスは口では残念と言いながら、特に残念がっているようにも見えなかった。 「まあ、こんな小技で貴様に傷を負わせられるとは最初から思っていない……だが、誇り(プライド)は傷ついただろう?」 そう言って嘲笑うように口元を歪める。 「……で? この俺に屈辱を味わせて……この後どうするつもりだ? 刃を失ったその剣で……」 ガイの視線と声は怖いほど冷たく落ち着き払っていた。 静かな怒りと殺意。 相手が素手だろうと、もはや逃がす気も手加減する気もない。 「怖い怖い……こうなっては仕方があるまい……なああっ!」 サーフェイスは再び全身から青い闘気を噴き出させた。 青き闘気は刃無き両手剣へと集束し、新しい剣刃を生み出す。 「……青い水晶の剣……?」 新たな剣刃は、水晶のような煌めきと透明さを有していた。 刃の長さと形こそ違うが、ネツァク・ハニエルの紫光剣(紫水晶の剣)とよく似ている。 「はっ!」 「ちっ!」 サーフェイスは青水晶の両手剣を横に一閃し、ガイは静寂の夜を上段から振り下ろした。 四度目の激突。 今回は今までと違い神剣によって両手剣が『斬り込まれる』ことはない。 より正確に言うなら、神剣の刃は両手剣の刃まで『届いて』すらいなかった。 「ふん、見た目通り水晶並みに脆いのか試すこともできないか……」 青水晶の内側から溢れ出す青い光輝(闘気)が剣刃を覆い、静寂の夜の刃を遮っている。 「ふぅん、確かめたくば我が闘気を押し切ってみせろぉぉっ!」 「くうぅっ!?」 サーフェイスは交錯状態から、力ずくで強引に静寂の夜を弾き返した。 「はあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……」 そのまま青水晶の両手剣を大上段に振りかぶり、全身から青き闘気を爆発的に放出させる。 「まだ闘気が上がるだと……!?」 底の計れない無限の闘気の奔流……その全てが青水晶の剣刃へと収束し、凝縮されていく。 「破あああぁぁっ!」 振り下ろされた青水晶の剣から青煌の閃光が解き放たれ、ガイ・リフレインを呑み込んで……世界を撃ち抜いた。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |